秋田県に暮らす親戚の祖母から聞いた お話です。
僕の祖母が近くの神社にお参りに行ったその帰りのあぜ道で、夕方頃だったんですけど、老人男性に道を尋ねられました。 その時、祖母はこの人はお化けだな、と直感したそうです。祖母の田舎の街並みというのは都会のように道が入り組んで、ごちゃごちゃしてなく見通しの良い簡素な作りなのに、それなのに、道を尋ねられた。 それがおかしいと思ったそうです。けれども、祖母は老人らしい親切心から、道案内をしてやろうと考えました。そして、しばらくの間、先に立って、よちよちあぜ道を歩いていたら、ふと背後の気配が消えた。 驚いて祖母が振り返ると、後ろには誰もいない。さっきまで一緒に歩いてたはずの 老人男性が跡形もなく消えている。やっぱり幽霊だったんだ、と急に恐ろしくなった祖母は前に向き直って慌てて逃げようとした。その途端、背後から、
「助けてくれ」
と、蚊の鳴くようなか細い声が聞こえてきた。そこで足を止め祖母が再び振り返って 声のした方を見た。すると、あぜ道に沿った用水路に大きく手を振りながら助けを求める老人男性の姿があったそうです。何でもその老人男性は、足を滑らせて用水路に落っこちたそうです。
傍で聞いたら、これは実にのんきな滑稽話に過ぎないのですけれど、祖母は大真面目で、あの時は本当、生きた心地がしなかったよ、としみじみと述懐していました。