風の生ぬるい日の午後、コンビニに行こうと道路を歩いていたら、道に沿った草むらの奥から、猫の声が、かすかに聞こえてきた。
「みゃー、みゃー」
子猫の声だ。捨て猫かもしれない。僕は 足を止めて、
「おいで、おいで」
と、そっと声をかけてみた。けれども、子猫は姿を見せない。
生ぬるい風は絶えず草を揺らしている。
聞こえなかったのだろうか。今度は少し声を上げて呼んでみる。
「おいで、おいで」
どうやら、気がついたようだ。だんだん鳴き声が近づいてくる。
もう一度、
「おいで、おいで」
目の前まで来た。
最後に子猫を怯えさせないよう小声で、
「おいで、おいで」
と囁いた。
すると、ザクザクと草を踏み潰しながら現れたのは、四つん這いの老婆だった。上唇がめくれていて、黄色い牙が見える。
はっと驚き、一目散に逃げる僕の背中に みゃーみゃーという鳴き声が、凄まじいスピードで追いかけてくる。