あまだまのスンドコ日記

ホラー怪談小説を公開しています。

万引き【ショートショート】

 

 全国各地には、スーパーマーケットがたくさんあります。どこの店も一様に万引きの被害に悩まされています。テレビなんかでも、店の店長が万引き犯に詰め寄るシーンがよく流されています。

 こちら東京の郊外にサトウヨーカドー というスーパーがあります。テニスコート ほどの広さの小さいお店なんですか、 困ったもので、やはり、ここも万引きの被害に悩まされています。

 この店に毎日のようにやってくる80歳ぐらいの痩せこけた婆さんがいるのですが、こいつは万引きの常習犯です。非常に タチの悪い婆さんで、最初買い物かごなんて、ぶら下げていかにも買い物客らしい風を装って、フラフラと店内を徘徊しますが、そのうち好物の饅頭の前まで来ると、突然、誰もいないの確認してから素早く 棚の饅頭を片っ端から盗んでしまいます。 面白いもんで、どうやら婆さんは盗んだものを服の中へ隠していくらしく、来店した時にはぺったんこだった腹が、店を出る頃にはガマ蛙のように大きく膨れています。

 このスーパーの店長は、佐藤健二という男です。歳は24歳と若いのですが、非常に立派な、そして情け深い人です。婆さんのその犯行を見ても、この婆さんはかわいそうな人なんだ、家では誰にも相手にされないから、その寂しさを紛らわすために物を盗むんだ、と佐藤店長はそう信じ込んでいるらしく知らん振りして見逃してやっているのです。

 ところがこう毎日毎日せっせと盗まれていては、たまりません。小さい店だからそのうち潰れてしまいます。ある日、佐藤店長は婆さんを捕まえて事務所で詰め寄りました。

「困りますよ。来ては盗んで来ては盗んで、そんな毎日やられたら、うちの店は潰れてしまいます」

「何を言ってるんだ。私は何も知らないよ。変な言いがかりは、よせやい!」

「今まで黙って見過ごしていましたが、もう我慢できません」

「知らないって言ったら知らないんだ!」

「いいえ、私はちゃんと知っているのですよ」

「何を知っているんだい!」

 佐藤店長は、婆さんの醜く膨らんだ腹をじっと見つめます。

 婆さんは慌てて、

「違う!これは妊娠しているんだ!」

「そんなバカな話があるもんですか。嘘をつくのはよしなさい」

「嘘じゃない!あまりうるさく言うと告訴するぞ」

 全くきりがない。押してもダメなら引くに限る。そう思った佐藤店長は、湯のみにお茶を入れると婆さんに差し出します。何とかして婆さんの腹の中から饅頭を引っ張り出して罪を認めさせようと考えたのです。

「どうぞ、冷めないうちに飲んでください」

と佐藤店長がお茶を進めると、さっきまでの強ばった顔がみるみる崩れ、婆さんは満面の笑みで、

「まあ、有難いことですね。ちょうど、喉が渇いていたところなんですよ」

と礼を言ってお茶をすすり始めました。だいぶ機嫌が良くなったようです。佐藤店長は、しめしめという気持ちで、

「いえいえ。どうぞどうぞ。本当は甘いお菓子でもあればいいのですがね。生憎この事務所には、そんな気の利いたものはないのですよ」

 すると婆さんは、

「甘いものだったら」と服の中に手を入れて、 腹から饅頭を一つ取り出して、

「甘いものだったら、ここにたくさんありますよ」