えー、稲川です。 今年の2月4日にね、愛媛の松山っていうところのあるホテルで、霊体研究会という講習会が開かれまして、私もそれに招かれましたので、電車に乗って松山に行ったんです。そして、その日の夕方、 講習も無事にすんで、私がホテルのロビーでくつろいでいると、それはその講習会のお客さんの一人だったのですが、その人がズカズカこっちに近づいてきて、私の隣に座って奇妙なことを語り始めたんです。その人は40歳ぐらいの品のいい婦人だったんですが、早速、私が話を伺いましたら、ある雪の夜、その日は旦那さんも息子さんも留守だったんですが、その婦人が1人で自宅の居間のこたつに足を突っ込みながらテレビを見ていたら、とんとんと戸を叩く音がする。旦那が帰ってきたのかしら、と思いながら玄関に出て、どちら様ですかと声をかけてみても返事がない。空耳だったのかしら、と首をかしげて再び居間に戻ってテレビを見ているとまた、とんとんと聞こえる。誰かのいたずらかしらと思って、玄関に降りて戸を開くと、外から雪がすごい勢いで吹き込んできました。誰かいるの、と言って婦人が雪の荒れ狂う真っ暗な外を見つめていると、玄関先に全身雪に覆われた顔の青白い女の人がぼーっと立っている。婦人はもうびっくりしましてドア閉めると、慌てて二階にかけ上がり、 寝室の布団に潜り込んで、その晩は、朝までガタガタ震えていたそうです。翌日も雪が降っていました。夜、同じように、1人でテレビを眺めていたら、とんとんと聞こえてくる。 婦人は怖くなったので、急いで二階に上がり、布団を頭からかぶったまま幽霊が消えるまでじっと待っていました。その間も、トントンという戸を叩く音が絶え間なく聞こえてきて、婦人は生きた心地がしなかったそうです。しかし、しばらく布団に潜ってじっとしてるうちに、その音も静まったので、婦人はようやくほっとして、布団の中から抜け出そうと思った、その瞬間、布団の端がひらりとめくれ、その隙間から、青白い顔の女が覗き込んで、
「また来るからね」
と囁くように言って消えたそうです。